季緑園-四季の庭-植木職人のこだわりの剪定鋏 八挺(はっちょう)の愛用道具をご紹介します

2026/07/16

割烹の料理人や寿司職人にとって、包丁は自分の腕そのものを表す道具だと言われます。
植木職人にとって剪定鋏はまさに料理人や寿司職人の包丁と同じく、とても大事な存在です。切れ味の悪い鋏は枝の切り口を潰し、そこから枯れ込みや病害虫の侵入を招くこともあります。逆に、手入れの行き届いた品質の高い鋏で剪定を行った枝は、切り口が美しく癒合(ゆごう)も早いため、木そのものの健康を守ることにつながります。八千代市、印西市、佐倉市、千葉市、船橋市周辺で庭木の手入れやお庭のメンテナンスをご検討されているお客様にも、日々の剪定作業で私たちが実際に使っている道具へのこだわりを知っていただければ幸いです。
私は日々の手入れの中で、鋏の研ぎと調整には特に気を配っています。刃を研ぐ時は断面を1mm以下のミクロン(μm)単位まで職人の目と手と感覚で調整を行い、刃の擦り合わせを違和感の無いように仕上げます。わずかな狂いが切れ味やコジリ(枝を潰す動き)の有無を左右します。また、大切なお客様のお庭や植木の手入れ(メンテナンス)をする前には、必ず鋏を殺菌消毒してから作業に入るようにしています。これは、ご自宅の庭や植木を大切にされているお客様に対しての当然の心がけだと考えているからです。

これまで25種類以上の剪定鋏を実際に使ってきましたが、鋏には一つ一つ「個性」があります。切れ味の質、手に伝わる感触、開閉の軽さ、枝先への運びやすさなど、同じ「剪定鋏」という道具でも、メーカーやモデルによって全く違う顔を持っています。だからこそ、樹種や枝の太さ、作業内容によって鋏を使い分けることが、良い仕事につながると考えています。価格の高さだけで良い鋏かどうかは判断できません。用途に合っているか、自分の手に合っているか、剪定の内容に合っているかを見極めることが大切です。
今回は、そうして選び抜いた八挺(はっちょう)の剪定鋏について、産地やメーカーの歴史、鋏そのものの特徴、そして実際に使ってみての感触を一挺(いっちょう)ずつご紹介します。あわせて最後に、剪定鋏ではありませんが、現場で欠かせない一品道具を「番外編」としてご紹介します。
【1. 阿武隈川宗寛 剪定鋏 B型 特製】

産地・製造地域
日本・山形県山形市。古くから鍛冶文化が受け継がれ、刀鍛冶や打刃物づくりの伝統が息づく地域です。
メーカーの歴史
初代・阿武隈川宗寛は江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した刀工で、古河藩お抱え刀鍛冶刀匠・固山宗次に入門した後、本郷駒込曙町に広大な敷地を構えた人物です。廃刀令後、二代目が裁ち鋏や散髪鋏を手がけるようになり、やがて剪定鋏専業へと転じました。明治3年(1870年)頃、日本で最初期に剪定鋏を製作した工房として知られており、150年を超える歴史の中で血統が続く直系工場として代々「阿武隈川宗寛」の名を継承し、現在も鍛造を続けています。
メーカーの特徴
刀剣づくりで培われた鍛造・焼き入れの技術をそのまま剪定鋏に応用している点が最大の特徴です。一挺ずつ鍛冶職人の火造り鍛造手打ち作業と仕上げが行われ、「阿武隈川宗寛」の刻印は登録商標として代々受け継がれています。
鋏の特徴
鋏型は現代剪定鋏の基本形とされる形状で、刃先がやや上方向を向いているのが特徴です。刃は根元から刃先にかけて厚みを持たせた造りで、刃幅の厚い「ハマグリ刃」により耐久性と切れ味を両立させています。硬く粘りのある高級刃物鋼を使用し、留め金は開閉のしやすい金止め仕様です。
使いやすさ
私がこの鋏を透かし剪定でよく手に取る理由は、その小回りの良さにあります。込み入った枝の間でも、普段の持ち方(順手)から手を返した持ち方(逆手)へとスムーズに切り替えられるため、枝の向きや角度に合わせて刃の入れ方を瞬時に変えることができます。この持ち替えのしやすさが、透かし剪定作業全体のスピード感を大きく高めてくれる一挺です。
【2. 宗家秀久(外山刃物) 本職用剪定鋏 YP200 T-13】

産地・製造地域
日本・新潟県三条市。日本有数の金物産地「越後三条」として知られ、鍛冶や刃物づくりの伝統技術が今も受け継がれています。
メーカーの歴史
外山刃物の創業は江戸時代の文久年間(1861〜1864年)にさかのぼります。越後木鋏の宗家として、初代・龍松、二代目・富次郎(銘:珍龍)、三代目・秀吉(銘:龍山)、四代目・秀久と、代々鋏づくりの技を継承してきました。160年を超える歴史を持つ、越後木鋏の老舗です。
メーカーの特徴
「火造り鍛造」「裏砥ぎ」「合い刃どり」といった伝統技法に定評がある一方で、精密研磨システムや産業ロボットによる製造ラインの開発など、新しい技術も積極的に取り入れているのが大きな特徴です。伝統技能と先端技術を融合させたものづくりを行っており、多くのプロの園芸家に信頼される鋏メーカーの一つとされています。
鋏の特徴
YP200シリーズは、江戸時代からの伝統である火造り鍛造によって作られており、刃は剃刀のような鋭さで枝葉に切り込みます。T-13(※革巻き仕様の場合はT-13K)は本職向けに全行程を手作業で加工した、気品と風格漂う一挺です。
使いやすさ
この鋏の魅力は、その独自の形状にあります。太めの枝をしっかりと力強く切り落とす場面と、枝の向きを整えるような繊細な調整をする場面。本来なら別の鋏を使い分けたいような正反対の作業を、この一挺だけで両立できてしまうのが最大の強みです。力強さと繊細さを同時に求められる庭木の仕上げ作業で、特に頼りになります。
【3. FELCO(フェルコ) #8】

産地・製造地域
スイス・ヌーシャテル州 レ・ジュヌヴェ・シュル・コフラーヌ。高い精密加工技術と品質へのこだわりが受け継がれている地域です。
メーカーの歴史
1945年、剪定鋏・切断工具メーカーとしてスイスで創設されました。フランス国境にも近いジュラ山脈の麓に位置するこのエリアは、古くから高級時計産業の工場が集まる「精密機械製造の聖地」として世界的に有名です。人間工学に基づく設計、構成部品の互換性、高耐久性をコンセプトに製品開発を進めてきた歴史を持ちます。
メーカーの特徴
品質・環境のマネジメントに関する国際規格ISO9001・ISO14001の認証を取得しているスイスメーカーです。以前スイスを訪れた際、精密機械や時計づくりにも通じるような、妥協を許さないものづくりの姿勢を肌で感じましたが、この鋏にもその国民性がそのまま表れているように思います。アルミ鍛造ハンドルの永久保証、その他の部品もすべて購入・交換が可能な設計で、刃の摺り合わせ調整も比較的簡単に行える点が特徴です。国内では大阪市でプロによる研ぎ直しサービス「フェルコメンテナンス工房」も用意されています。
鋏の特徴
FELCO8は切刃に力を伝えやすいアングルヘッド(下方へ傾斜した刃)と、フィット感を重視した曲線ハンドルを採用した、切断機能に特化したプロユース向けのスタンダードモデルです。全長210mm、重量約245g、切断径は25mm。切断時の衝撃を和らげるショックアブソーバーが搭載されています。
使いやすさ
フェルコシリーズ全体に共通する強みですが、人間工学に基づいて設計されたグリップの握りやすさは特筆すべきものがあります。手の中でしっかりと安定するので、力の伝わり方に無駄がなく、狙った枝を狙った角度でスパッと切ることができます。プロの現場で長時間使用しても疲れにくいのは、このグリップ設計によるところが大きいと感じています。
【4. FELCO(フェルコ) #13】

産地・製造地域
スイス・ヌーシャテル州 レ・ジュヌヴェ・シュル・コフラーヌ(メーカー概要はFELCO#8と同じ)
鋏の特徴
鋏FELCO13は全長270mmと大きく、必要に応じて両手で握れるロングハンドル仕様のスペシャルモデルです。アングルヘッド、曲線ハンドルに加え、刃の擦り合わせ調整が容易なアジャスタブルセンターナット、針金切断用ノッチ、樹液の付着を軽減するグルーブ付きの刃を採用しています。切断能力は約30mmとフェルコの中でも大きく、クッション・ショックアブソーバーも搭載されています。
使いやすさ
大型のモデルでありながら、こちらも人間工学に基づいたグリップ設計のおかげで、力を込めても手に余計な負担がかかりにくいのが特徴です。太めの生木や果樹の枝を相手にする場面でも、握りやすさと力の伝わりやすさが両立しているため、安定して美しい切り口を作ることができます。
【5. FELCO(フェルコ) #6】

産地・製造地域
スイス・ヌーシャテル州 レ・ジュヌヴェ・シュル・コフラーヌ(メーカー概要はFELCO#8と同じ)
鋏の特徴
FELCO6は軽量・コンパクト(全長195mm、重量約210g)でありながら、フェルコの伝統的な構造をそのまま受け継いだモデルです。切断径は20mm。比較的手の小さな方にも馴染みやすく、あらゆるシーンで扱いやすいスタンダードモデルとして位置づけられています。
使いやすさ
コンパクトなサイズながら、人間工学に基づいたグリップ設計は健在で、少ない力でも鋭い切れ味を発揮してくれます。握りやすく切りやすいというフェルコシリーズ共通の美点を、小型モデルでもそのまま体感できる扱いやすい一挺です。
【6. LOWE(レーヴェ) 6.104】

産地・製造地域
ドイツ シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州 キール。機械工業や造船業が盛んな、実用性を重視したものづくりの地域です。
メーカーの歴史
ドイツのワルダー・シュレーダー氏が考案したオリジナルライオン(LOWE)ブランドとして誕生し、創業から90年を超える歴史を持つ老舗です。世界で初めてアンビル(受け刃)式剪定鋏を開発したメーカーとして知られています。
メーカーの特徴
LOWEの最大の特徴は「アンビル式」の構造です。上刃だけが動き、厚みのある受け刃(アンビル)が枝を支えることで、まな板の上で包丁を使うような鋭い切れ味を、少ない力で実現しています。以前ドイツを訪れた際にも感じたことですが、無駄を削ぎ落として合理性を追求するものづくりの思想が、この構造にもそのまま息づいているように思います。柄の支点に工夫を加えたテコ構造により、わずかな握力でも木質を潰さずにきれいな切り口を保てる点も特徴です。全ての部品が交換可能で、高級磨きクロームメッキ仕上げによる防錆処理も施されています。
鋏の特徴
6.104は「強力型アンビル式」と呼ばれるモデルで、刃の交換が非常にスムーズに行えるスマートな設計が特徴です。コンパクトで内側に湾曲したハンドルが手のひらにしっかりホールドします。重量は約230g、切断径は最大25mmです。
使いやすさ
太い枝や硬い枝を少ない力で切断できるため、手首への負担軽減に非常に有効だと感じています。バイパス式の鋏に慣れた手には、アンビル式特有の切り口の感覚に馴染むまで少し時間がかかりますが、硬く太い枝を数多くこなすハードな作業ではこれ以上なく頼りになる一挺です。
【7. アルス VS-8Z】

産地・製造地域
日本・大阪府堺市。刃物の産地として名高い「堺」に本拠を置くメーカーです。
メーカーの歴史
アルスコーポレーションは1876年(明治9年)、名刀の町・堺に誕生し、145年以上にわたり刃物製造を営んできました。伝統的にオール鉄製が主流だった時代に、グリップと刃部を分けて製造する方法をいち早く研究し、軽量で使いやすい剪定バサミを生み出したことで知られています。1952年に発売した「赤い柄の剪定バサミ」は全国へ普及し、この赤色は今日「アルスレッド」としてコーポレートカラーとなっています。日本で初めてハードクロムメッキを施した剪定鋏を商品化するなど、技術力を軸に事業を拡大してきたメーカーです。
鋏の特徴
VS-8Zは全長約200mm、重量約220g、生木切断目安が直径15mm以下のモデルです。刃には高炭素刃物鋼を使用し、ハードクローム仕上げが施されています。グリップはアルミダイカストにビニールコーティングを施した仕様です。
使いやすさ
丈夫でありながらグリップに優れたクッション性があり、手に伝わる衝撃が穏やかなのが気に入っているところです。一日を通して数多くの枝を切り続ける現場でも、手への負担が少なく、疲労を感じにくいのが実感としてあります。長時間の剪定作業が続く日には、真っ先に手が伸びる一挺です。
【8. 岡恒(おかつね) NO.103】

産地・製造地域
日本・広島県尾道市。みかん栽培をはじめとする柑橘農業が盛んな地域です。
メーカーの歴史
株式会社岡恒鋏工場は、大正14年(1925年)創業の老舗です。赤と白の柄でおなじみの剪定鋏や、みかん収穫用の採果鋏などを製造しており、国内はもとより海外にも愛用者が広がっています。
メーカーの特徴
「硬さ」と「粘り」を両立させる熱処理技術に定評があるメーカーです。最高級の刃物鋼を材料とし、正確な熱処理と精密な加工によって、長く使うほど真価を発揮する刃持ちの良さを追求しています。
鋏の特徴
NO.103(ユニーク 200mm)は全長約200mm、重量約230gの標準的な剪定鋏です。無駄のないシンプルな構造と、抜群の硬度を持つ刃が特徴です。
使いやすさ
実はこの岡恒の鋏は、私が造園会社で修業をしていた時代から使い続けている、いわば原点とも言える一挺です。当時から変わらぬ切れ味と刃持ちの良さは、これまで数多くの鋏を試してきた今でも色褪せることがありません。庭木や竹の日常的な手入れなど、長年の手に馴染んだ安心感とともに使える、思い入れの深い鋏です。
【番外編】CORONA(コロナ) BP 4350

産地・製造地域
アメリカ合衆国・カリフォルニア州コロナ市(製造:メキシコ)。世界有数の農業地帯に位置し、柑橘類や果樹栽培が盛んな地域です。
メーカーの歴史
Corona Toolsは1928年、カリフォルニア州コロナの柑橘農園地帯で誕生しました。地元の学校教員が「果実を傷めずに収穫できる道具」の必要性に着目し、地元の鍛冶職人とともに開発した小型のオレンジ収穫鋏(通称「9Bオレンジクリッパー」)がその原点です。以来、約100年にわたり農業・造園向けの手工具を手がけるアメリカを代表するブランドとして成長し、現在はスペインのVenanpri Groupの一員となっています。
メーカーの特徴
柑橘収穫用の道具づくりから発展した実務志向のアメリカンブランドで、独自の「コロニウム鋼合金」を用いた鍛造刃が特徴です。この一挺は、造園資材の視察でアメリカを訪れた際、現地で購入したもので、私にとっては渡航の記念にもなっている愛用の道具です。
道具の特徴
実はこちらは剪定鋏の枠に留まらない、バイパス構造の堅牢な万能刃物です。刃渡りは短めながら、日本の木鋏(植木鋏)よりも刃全体が非常に厚く、コンパクトに設計されているのが特徴です。切断能力は約19mm(3/4インチ)ほどで、鍛造スチール製の刃にクッション性のあるビニールグリップを組み合わせています。
使いやすさ
この厚みとコンパクトさのバランスが、力強さと繊細さの両方が求められる松の手入れによく合います。鋏を持ちながら古葉を取る作業やみどり摘みで細かく枝を整えたりする作業では、しっかりと力を込められる厚い刃と、細かい枝の間に入り込める小回りの良さが同時に必要になりますが、この一挺はその両方を兼ね備えています。剪定鋏の枠には収まりませんが、松の手入れでは欠かせない頼りになる相棒です。
まとめ

こうして剪定鋏を並べてみると、日本の刀鍛冶に由来する鍛造技術、越後三条の伝統工芸、スイスの人間工学に基づいた精密設計、ドイツのアンビル構造、そしてアメリカの実務発想と、産地ごとに全く異なる思想で作られていることが分かります。同じ鋏でも、これほど個性が違うからこそ、樹種や枝の太さ、剪定の目的に応じて使い分ける意味があります。
ドイツやスイス、アメリカへは実際に足を運んだこともあり、現地でのものづくりの空気に触れた経験は、今の道具選びにも少なからず影響しています。番外編でご紹介したコロナの道具も、そうした視察の中で出会った一挺です。
私たち植木職人にとって剪定鋏は、料理人や寿司職人の包丁と同じように、腕を映す道具でもあります。だからこそ研ぎと調整は妥協せず、職人の手と目と感覚でミクロン(μm)までの単位で仕上げ、大切なお庭や植木に鋏を入れる前には必ず殺菌消毒を行っています。良い鋏は値段の高さだけで決まるものではありません。用途に合った鋏、自分の手に馴染んだ鋏を見極め、使いこなすことこそが、お客様の大切なお庭や植木を良い状態にして、喜んでいただける仕事につながると考えています。八千代市、印西市、佐倉市、千葉市、船橋市周辺で庭木の手入れやお庭のメンテナンスをお考えの際は、こうした道具へのこだわりも、依頼先を選ぶ一つの目安にしていただければ幸いです。





