2026年08月24日
現代の暮らしに
自然のリズムを取り入れる


私たちは、スマートフォンやパソコン、エアコン、コンクリートやプラスチックなどの人工物に囲まれて暮らしています。便利で快適になった一方で、森の中を歩いたときに感じるような心地よさは、人工物だけではつくることができません。
この夏に自然浴について書かれた本を読み、実際に北海道大学植物園、阿寒湖周辺のアイヌの森を訪れ、知床の世界自然遺産の森をガイドの吉田さんと歩きました。実際に現地の深い森の中へ入ってみると、写真や本だけでは分からない事がたくさんありました。
風に揺れる枝葉
木漏れ日から見える空
野生動物や鳥、虫の声
雨上がりの土の匂いや、樹木と花の香り
時間によって変化する森の色
循環する生命
自然がつくる造形
気候風土による植生の違い
こうした変化を五感で感じる時間には、都市生活とは異なる感覚があります。
それとは別で「時間のかかる大きな森へ出かけなくても、身近な場所で自然を感じる時間をつくることができるのではないか」その一つの形が、季緑園が提案する庭で過ごす「小さな森林浴」です。
これは庭を深い森林にするという意味ではありません。日常生活の中で樹木や草花、風や光に目を向け、身近な自然を感じる時間を持つという考え方です。
森林浴とストレス緩和の科学


「森林浴」という言葉は、1982年に林野庁によって提唱されました。現在では「Shinrin-yoku」として国際的にも知られ、森林環境が人間の心理や生理に与える影響について研究が進められています。
都市環境と森林環境を比較した研究では、森林環境で過ごすことで以下のような変化が確認された例があります。
副交感神経活動の増加(リラックス状態)
交感神経活動の低下(緊張緩和)
唾液中コルチゾール濃度の低下(ストレスホルモンの減少)
脈拍数の低下
また、医学博士の李卿(Qing Li)氏らの研究や林野庁が紹介する資料では、森林環境によって「緊張・不安」「抑うつ」「怒り」「疲労」「混乱」といったネガティブな気分状態が軽減し、「活気」が高まる方向の変化も報告されています。
過度な刺激や緊張から解放されることで、心身が本来のバランスを取り戻していく。森林浴と人間の心身の関係は、単なる気持ちの問題にとどまらず、科学的な研究対象となっています。
※注意したい環境の違い
これらは基本的に広大な森林環境で行われた研究です。「庭に樹木を一本植えれば、森林浴とまったく同じ効果が得られる」という意味ではありません。
森林と住宅の庭では、樹木の量、空間の広さ、空気環境、音や香りなどが異なります。庭にできることは森林そのものを再現することではなく、日常の中で自然に触れる機会を増やすことにあります。
森の香りと「フィトンチッド」


森林の中を歩いたときに感じられる爽やかな香りには、樹木などから放散される揮発性物質が関係しています。こうした植物由来の揮発性物質は、一般に「フィトンチッド」と呼ばれています。
森林総合研究所などの研究では、針葉樹などに多く含まれるα-ピネンや、柑橘類にも含まれるリモネンなどの成分が紹介されています。木材由来のα-ピネンを嗅ぐ実験では、生理的なリラックス反応が観察された研究結果もあります。
ただし、フィトンチッドという言葉を「特定の健康効果を生む単一の物質」と捉えるのは適切ではありません。
実際の森林には多種多様な揮発成分が存在しており、さらに光、風、音、景色、温度湿度といった環境全体の要素が五感に総合的に作用しています。特定の成分だけを見るのではなく、空間全体を捉えることが重要です。
庭だからこそ感じられる「日々の移ろい、変化する景色」
庭の大きな魅力は、静止画ではなく「毎日少しずつ変化する風景」にあります。
朝と夕方では光の角度が変わり、晴れの日と雨上がりでは葉の発色や土の香りが変わります。また、樹木には時間の経過による成長と変化があります。
特に落葉樹では、一年の間に以下のような明確なストーリーを見ることができます。
芽吹き → 新緑 → 夏の濃い緑 → 紅葉 → 落葉 → 冬の綺麗な枝姿
一方、一年を通して緑を保つ常緑樹には、空間を落ち着かせる役割があります。常緑樹と落葉樹を適切に組み合わせることで、一年を通して飽きることのない豊かな景観が生まれます。
人工物の多くは「完成した瞬間」がピークですが、植物は季節や光、風を受けて常に表情を変えます。この「生きた変化」こそが、暮らしに心地よいリズムをもたらしてくれます。
季緑園の想う「透かす」剪定がつくる風と光の通り道


庭で小さな自然を感じるためには、樹木の管理方法も大切です。ただ小さく切り詰めるだけが剪定ではありません。
枝葉を適度に整理する「透かし剪定」を行うと、庭に次のような変化が生まれます。
気持ちの良い風が通る
奥までやわらかい光が入る
美しい木漏れ日や、枝葉の動きが見える
樹木の奥行きと、自然な樹形が引き立つ
※樹種や木の状態、置かれた環境によっては強く切り詰める剪定が必要な場合もあります。
大切なのは、「単に小さくする」ことだけを目的にするのではなく、樹木本来の美しさや、風と光との関係性を考慮して整えることです。枝葉の間から差し込む光や、風に揺れる葉の音を感じることも、庭でできる小さな森林浴の一環です。
暮らしの中に「自然を感じる時間」を


日常が忙しく、大きな森へ出かける時間がなかなか取れない方にこそ、身近な場所にある小さな自然に目を向けてみてほしいと考えています。
窓から一本の木を眺める
玄関を出たときに風に揺れる枝葉を見る
花や木の香り、雨上がりの土の匂いを感じる
季節によって変わる葉の色を楽しむ
朝の数分や夕方のひととき、こうした時間に意識を向けるだけでも、都市生活の中に自然のリズムを取り入れることができます。
庭を大きな森にするのではなく、暮らしの中に「自然を感じる時間をつくる」。
それが、季緑園―四季の庭―の考える「庭の小さな森林浴」です。

参考資料・研究
本記事では、森林浴、森林環境、森林の香り、フィトンチッド、人間の心理・生理的反応などについて、以下の公的機関および研究資料を参考にしています。
林野庁「森林浴 ―いつでも森と、心をほどく。」
林野庁「保健・レクリエーション機能」
森林研究・整備機構 森林総合研究所「森香る春」
森林研究・整備機構「木材由来のにおい成分α-ピネンは人をリラックスさせる」
森林研究・整備機構「ブナ天然林での森林のセラピー効果」
Qing Li「Effect of forest bathing trips on human immune function」
Qing Li「Effects of forest environment (Shinrin-yoku/Forest bathing) on health promotion and disease prevention」
Scientific Reports「Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing」


免責事項
本記事は、森林浴や自然環境に関する研究・公的資料をもとに、庭や樹木のある暮らしについて考案したものです。森林浴に関する研究結果を、住宅の庭にそのまま当てはめるものではありません。また、樹木やフィトンチッド等による健康効果、疾病の予防や治療を保証するものでもありません。感じ方には個人差があり、庭の環境、樹種、天候などによっても異なります。本記事は医療行為や医学的な助言を目的としたものではありません。







